トップページ > 学会レポート > 2011年関連学会・イベント > 「第17回日本保育園保健学会」ランチョンセミナー2 「保育園で流行する感染症」 ~胃腸炎はワクチンで予防できる?~

2011年関連学会・イベント

第17回 日本保育園保健学会 ランチョンセミナー2 「保育園で流行する感染症」 ~胃腸炎はワクチンで予防できる?~

写真.寺田 喜平 先生
【座長】
川崎医科大学附属病院
小児科学 教授  寺田 喜平 先生
写真.大石 智洋 先生
【演者】
新潟大学医歯学総合病院
小児科 特任助教  大石 智洋 先生

集団生活を行う保育園では、流行感染症の対策に苦慮することが多い。特に乳幼児期に多く発症し、感染力の強いロタウイルス胃腸炎は、保育園での集団発生がしばしば問題とされ、重症化しやすいという点でも手ごわい感染症といえる。
本セミナーでは、新潟大学医歯学総合病院 小児科の大石 智洋氏が、ロタウイルス胃腸炎の概要と予防の難しさ、ようやく本邦でも接種可能になるワクチンの予防効果と意義について解説した。

乳幼児がかかりやすく重症化しやすいロタウイルス胃腸炎

保育園で流行する感染症の一つにロタウイルス胃腸炎がある。ロタウイルス胃腸炎は、日本では毎年約120万人の子どもたちが発症する普遍的な病気である。

ウイルス性胃腸炎にはロタウイルス胃腸炎のほかに、ノロウイルス胃腸炎があるが、ノロウイルス胃腸炎が年末に流行するのに対し、ロタウイルス胃腸炎は、年が明けてから流行のピークを迎える。また、ノロウイルス胃腸炎は大人も感染するが、ロタウイルス胃腸炎は、患者の約8割から9割が5歳までの保育園に通う年齢で、圧倒的に乳幼児の感染が多い(図1)。下痢や発熱の程度が重く、乳幼児に重症の脱水を起こす下痢症の主な原因とされる。入院が必要となる重度下痢症の原因の約4割はロタウイルスであるという報告もなされている。

図1.ロタウイルス胃腸炎患者の年齢分布 クリックで拡大

乳幼児が濃厚接触する保育園では、集団感染が起こりやすく予防が困難

保育園でのロタウイルス胃腸炎集団発生については、国内でもいくつかの報告がある。実際、保育従事者は、毎年のようにロタウイルス胃腸炎の流行を経験していると思われる。また、集団発生した園では、患者の発生が2週間にわたって続く例もみられる。これらの原因として、ロタウイルスの感染経路や、感染力の強さが挙げられ、標準的な衛生対策を行っても、ロタウイルスの感染を防ぐことは難しいとされている。

ロタウイルスの主な感染経路は、糞口感染である。便中に排泄されたウイルスは、オムツを替えた手や床、家具、おもちゃなどについて数日間生き延びる。乳幼児の場合は、ウイルスが付着したおもちゃやそれを触った手などを口に入れて、感染してしまうことが多い。患者の便1mL中には100億~1兆個ものウイルスが含まれているが、乳幼児への感染はわずか10個のウイルスで成立するといわれている。仮に0.01mLの便が飛び散ったとしても、1000万人以上が感染するだけのウイルスが含まれることになる。さらにウイルスの便中への排泄は、下痢の症状が治まった後も続くことが知られている。

ヨーロッパでも、託児所や保育園に通う5歳未満の子どもは、通っていない子どもよりロタウイルス胃腸炎を発症する確率が高いことが示されているが、諸外国に比べて1人あたりの保育面積が狭い日本の保育園では(図2)、より集団感染の危険性が高く、一度感染が広がるとなかなか収束しないと考えられる。

図2.3歳以上の園児1人あたりの保育面積基準の国際比較 クリックで拡大

重症胃腸炎の予防効果が期待されるロタウイルスワクチン

厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」では、感染症予防について、主に3つの対策を示している。まず、発症者を隔離するなどの感染源対策、発症者から曝露される病原体に対して、感染経路を遮断する感染経路対策、そして、発症していない子どもたちにワクチンで免疫をつける感受性対策だ。

ロタウイルス胃腸炎については、これまで見てきた理由から感染源対策、感染経路対策でコントロールすることは難しい。残る一つがワクチン接種である。WHOでも、ロタウイルス胃腸炎を予防する最も有効な手段として、ワクチン接種を推奨している。

日本では、2011年7月に国内初の経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン、ロタリックスが承認された。すでに世界120ヵ国で承認されているこのワクチンは、ヨーロッパの臨床試験で、接種後1年目の流行期に、重症ロタウイルス胃腸炎を96%、さらにロタウイルス胃腸炎による入院を100%予防することが示されている。また、ワクチンの定期接種を2008年に導入したアメリカでは、2010年までの3年間にロタウイルス陽性検体数が、過去7シーズンの中央値より86%も減少した。

日本国内の臨床試験でも、医療機関の受診が必要な重症のロタウイルス胃腸炎を91.6%予防し、海外の臨床試験と同様に高い有効性と安全性が確認された(図3)

私は今、前任地の新潟県新発田市で、ロタウイルス胃腸炎の患者数の調査をしている。2010年の流行シーズンにワクチン導入前の患者数のデータを取り、今後はそのワクチンを導入した後にどれだけ発症者数が変わるか、その違いを見ることが目的である。新発田市には3ヵ所の小児科診療施設があり、市内の子どもはほとんどこの3つの医療機関を受診する。2010年2月から5月に胃腸炎で外来受診した3歳未満の子どもは398人で、市内の3歳未満の人口の17.3%にあたる。そのうち、点滴を必要とする重症胃腸炎の患者は62人で、その86%にあたる52人が便中ロタウイルス抗原陽性でロタウイルス胃腸炎と考えられた。先ほどの、ワクチンの有効率が96%というデータから計算すると、もしこの52人が全員ロタウイルスワクチンを接種していたとしたら、50人は点滴を要する重症ロタウイルス胃腸炎に至らずに済んだ、ということになる。

ロタリックスの普及により、保育園で集団発生しやすく感染対策が難しいロタウイルス胃腸炎、特に点滴や入院を必要とする重症胃腸炎の予防効果が期待される。普及の問題となるワクチン接種費用について、日本でも国や自治体の公費助成が一日も早く実現することを望みたい。

図3.日本におけるロタリックス®の第Ⅲ相試験(治験) クリックで拡大

まとめ

ロタウイルス胃腸炎は、乳幼児がかかりやすく、重症化しやすいウイルス性胃腸炎で、保育園でも集団発生がみられる。感染源の隔離や感染経路の遮断が難しいため、予防手段としてはワクチンが最も有効である。2011年に承認された国内初のロタウイルスワクチン、ロタリックスは、国内外の臨床試験や海外の使用経験から優れた予防効果と安全性が証明されている。ロタリックスが普及すれば、対策の難しい保育園でのロタウイルス胃腸炎の流行予防にも、効果が期待できる。